米軍基地・安保条約が左右=北方領土めぐる日ロ交渉
北方領土問題をめぐる日ロ首脳の交渉。平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を交渉の基礎にすることで合意したが、ロシア側は早くも「自動的な引き渡しを意味しない」とけん制し、外交交渉にしたたかなプーチン大統領による揺さぶりが垣間見える。日本政府関係者によると、ロシア側が譲らない条件としているのは、引き渡し後の2島に米軍基地を造らないという確約だ。
◇国後、択捉はロシア防衛線
ロシアにとって、北方四島が安全保障上いかに重要なのか。千島列島・北方四島の内側には、オホーツク海があり、自衛隊関係者によると、米本土を射程に入れた戦略核ミサイル搭載のボレイ級原子力潜水艦が潜む。米国から先制攻撃を受けた場合に、いわゆる「第2撃」と呼ばれる反撃能力を維持する海域となっている。
カムチャツカ半島にはボレイ級原潜の基地がある。日本海に面したロシア極東ウラジオストクにはロシア海軍の水上艦の基地があり、原潜の修理施設もある。ロシアにとって、千島列島・北方四島は原潜と水上艦隊が自由に太平洋にアクセスする要衝であり、他国を寄せ付けない防衛ラインでもある。国後島、択捉島には北海道東部まで射程に入れる地対艦ミサイルが配備されている。
◇北海道の基地
防衛省などによると、北海道では日米地位協定に基づき米軍が管理する基地(専用施設)は通信施設「キャンプ千歳」(千歳市)だけだ。敷地の大半を自衛隊が共同使用している。
「北の守り」は冷戦時代に旧ソ連の着上陸侵攻と空軍の脅威を想定し、陸上自衛隊と航空自衛隊が中心に担ってきた。自衛隊OBは「米軍が2島を軍事的に利用するとすれば、国後水道に近い色丹島沖の海底にロシア原潜の音を収集するソナーを設置する可能性がある」と話す。防衛ラインの近くに米軍施設ができればプーチン氏のメンツは丸つぶれとなり、軍部からの突き上げも避けられない。
日米安全保障条約上、米側は日本の同意を前提に、日本国内に米軍施設・区域を設置できる。ロシア側に「基地は置かない」と言うのは、北方領土が安保条約の例外になることも意味する。
沖縄県・尖閣諸島防衛では日本の施政下にあることが、米側に「尖閣は対日防衛義務の範囲」と表明させる根拠になっている。尖閣で安保条約適用を求め、北方領土は例外扱いにすることには、米側が難色を示すのは必至だ。了承しても、例外であることを理由に有事の尖閣防衛から手を引くリスクもはらむ。(2018/11/23-14:40)