<NATO>冷戦後最大の軍事演習 「仮想敵国」はロシア

<NATO>冷戦後最大の軍事演習 「仮想敵国」はロシア

 

北大西洋条約機構(NATO)が対ロシアを念頭に、冷戦終結から最大規模となる軍事演習を北欧ノルウェーで展開している。ロシアによるウクライナへの軍事介入(2014年)やサイバー攻撃などを組み合わせた「ハイブリッド」型の脅威に身構える西側諸国が強い対抗姿勢を示した形。演習に対してロシアは激しく反発する。演習直前には、米国がソ連(当時)と結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明したことで、米露の軍拡競争活発化の懸念も強まる。世界は「新冷戦」のとば口にあるのだろうか。

気温2度。スカンディナビア半島の西端の入り江に北大西洋の冷たい風が吹きつける中、ごう音と共にノルウェー軍の戦車が土ぼこりを上げながら横切った。上空には激しいプロペラ音を響かせる米空軍の攻撃ヘリコプターAH64。沖に配備されているのはオランダ、フランス両海軍の揚陸艦。NATOが10月30日に公開した軍事演習「トライデント・ジャンクチャー」の一場面だ。

演習はノルウェー北部が「架空の敵国」に侵攻され、NATOが集団的自衛権を発動したとの想定に基づく。演習のシナリオでは、ノルウェー領土や北大西洋、バルト海の広域に多国籍の即応部隊を展開して、ノルウェーの主権を奪回する。名指しこそしないが、ノルウェーと北極圏で国境を接するロシアが「架空の敵国」であるのは明白だ。

1カ月近く続く演習には、NATOの加盟全29カ国のほか非加盟国のスウェーデンとフィンランドの計31カ国が参加。兵士5万人、戦闘機250機、戦艦65隻、戦車を含む車両1万台を動員した。

NATOはウクライナ危機を受けて、対露警戒感を強め、中・東欧での抑止力強化を課題としてきた。今回の演習の舞台に北欧を選んだ背景には、基地の新設や配備戦力の増強など、ロシアが北極圏で軍事力を拡大していることへの警戒感がある。

反発するロシアは、今回の演習の期間中にノルウェー沖の国際海域でミサイル訓練を実施するとNATOに通告。「冷戦期の演習と違いがあるのか」。現地の記者会見で質問を浴びたNATOのストルテンベルグ事務総長は、冷戦との認識は否定しつつもこう強調した。「今日の状況は、より予測不可能だ」