自動車輸出の交渉材料に?
建設機械大手のコマツが防衛省に対し、自衛隊車両の新規開発中止を申し入れていたことが明らかになった。車両開発をしてもコストがかかる割に台数が見込めず、採算に合わないため。陸上配備型迎撃ミサイル・システム「イージス・アショア」やF35戦闘機を筆頭に防衛予算は年々増大しているが、中身は米国製品の丸ごと購入が中心で、国内防衛企業の受注分は先細るばかり。同様の事態はコマツ以外の企業にも当てはまり、現状が続けば防衛産業の基盤が弱体化する恐れが強い。
コマツが新規開発中止を申し入れたのは軽装甲機動車両(LAV)で、イラク派遣や国連平和維持活動などで活躍。防衛装備品の性格上、生産できるメーカーが限られることから随意契約方式となっており、多い時は年200両近くを受注していた。ただ最近は数十両に落ち込み、先行きも台数増加が期待できないと見て新規開発を見送ったもようだ。
コマツに関しては防衛省はこれ以外でも、96式装輪装甲車の後継機開発を依頼。費用と性能両面で折り合わず、見送りになった経緯がある。20年近くが経過し老朽化した96式装輪装甲車の後継は、より重装甲と、機動力の両立が要求される。装甲を厚くすれば車体重量が増し、機動性や運搬性が損なわれる。量産でコストを引き下げようにも防衛予算が限られているため、それも難しい。
防衛装備品のハイテク性が増すほど、開発費用も膨大になる。開発予算をかけても台数増加で企業側に見返りがあれば“ウイン・ウイン”だが、防衛予算は米国製品の丸ごと購入に取られ、他の予算が削られているのが実情だ。
海上自衛隊の護衛艦「いずも」型に搭載が予定されるF35戦闘機は当初、数機を米から購入し、残りを日本国内でライセンス生産する計画だったが、貿易赤字削減を求めるトランプ政権の圧力もあり、丸ごと購入のまとめ買いが決まった。「この方が大量買いでコストも下がる」と同省は説明する。1機当たりの価格を考えればコスト競争力があるのは確かだが、ステルスや次世代技術が日本企業に移転されるのかには疑問が残る。
防衛装備品はハイテクや高度加工技術の塊であるだけに、技能伝承や工場設備の維持がいったん途切れると、復活は容易ではない。海外製品への過度な依存は、長期的には防衛力の弱体化を招く。同省もこれを避けるため、中小企業を含めたマッチング会開催や民生技術の転用など、さまざまな手は打っている。ただ金額効果は小さく、決め手がないのが実態だ。
貿易赤字削減を掲げるトランプ政権の本音は「米国への自動車の輸出を減らせないか、米農産物を買えないのなら防衛装備品として米国製品を買え」というもの。金額のつじつま合わせに終始するならば、重要な基盤を失う恐れがある。