千葉市   「ドローン×インフラメンテナンス」連続セミナー

千葉市

災害対応やインフラ維持管理などドローンの可能性、先進的な自治体の施策事例から読み解く

第2回の「ドローン×インフラメンテナンス」連続セミナーでは、自治体におけるドローン活用に向けた取り組み事例の講演が複数展開された。

横浜市では現在、中大口径の下水道管を対象に、ドローンによる点検調査が行われている。横浜市 環境創造局 下水道管路部 管路保全課 課長補佐(ストックマネジメント担当係長)・小林史幸氏が解説した。

横浜市は下水道の中大口径管でドローン点検、コスト1/3を実現

横浜市の下水道管路は、約1万1900km(キロ)=約60万スパンが地下に張り巡らされており、このうち管路800mm(ミリ)未満の小口径管は約1万km、800mm以上の中大口径管は約1900kmあるとされる。

下水道管の破損・劣化などに起因する道路陥没件数は、年々増加傾向にあり、2017年だけで76件も発生している。

一般的に下水道管の耐用年数は、“50年”といわれているが、敷設後50年が経過した下水道管は市内に現在約800kmあり、20年後には10倍の約8000kmとなることが予測され、喫緊の対応が求められている。

現状の点検方法は、小口径間の場合は、「自走式TVカメラ」を用いて詳細調査を行っている、2018年からは清掃と同時に「ノズルカメラ」を使って、スクリーニング調査を実施し、詳細調査が必要な箇所を抽出している。

一方で、中大口径管は作業員が実際に管の中に潜り、目視で点検していたため、酸欠・有毒ガスなどの危険性や人が入り込むのに困難な場所があるなど、問題点が山積していた。対応策として、自走式・浮遊式TVカメラを活用して、作業性の向上やコスト縮減を図っている。

具体的なドローン施策としては、横浜市では2016年から、日水コンを研究代表とするドローンを活用したスクリーニング調査の産官学の共同研究プロジェクトに参画。ドローン技術の開発でブルーイノベーション、雲田商会、芝浦工大、画像解析で横浜国立大学、横浜市は行政課題・フィールド提供を担当している。研究目標としては、中大口径下水道管を対象にドローンを活用したスクリーニング調査で、判定基準のうち異常ランクA(鉄筋露出状態)・B(骨材露出状態)を抽出。さらにメーターあたり2000~5000円かかっているコストを3分の1程度に抑えることを目指している。

実用化に向けたハードルとしては、地下の非GPS環境への対応、下水が流れていること、狭いマンホールからの機器を搬入するといったことがある。これまでの研究では、管径φ1500~3000mmの円形・長方形、線形は直線・曲線とさまざまな条件下でテスト。ドローンは、目視・目視外の手動飛行は4つの市販機に調査用カメラとLED照明を搭載したカスタム機と、自動飛行タイプは独自開発機を投入した。

現状での成果としては、一定の条件下(管径、水深)で手動飛行によるスクリーニング調査の有用性を確認した。今後は、手動飛行による適用条件の拡大およびドローン熟練操作者の育成、自動飛行の確立、AI技術を用いた異常自動判定(自動画像解析、帳票作成システム)の開発を進めていくとした。

次に、宅配ドローンの実証実験で注目を集めた千葉市の取り組みが紹介された。

あらゆる分野でのドローン活用、新ビジネス創出を支援
千葉市の取り組みは、千葉市 総合政策局 国家戦略特区推進課 課長・秋庭慎輔氏が登壇。インフラ点検とは違った観点で、ドローン活用支援の取り組みを紹介した。

千葉市は「国家戦略特区」の第3次指定を2016年1月に受けている。以降、幕張新都心を中核に据えた「近未来技術実証・多文化都市」の構築を行ってきた。先端技術としては、ドローン・自動走行を活用し、子育て世代・高齢者などの生活利便性を向上させることを目標としている。

2016年4月には、幕張ベイタウンで高層マンションへ薬品、ワインをドローン宅配する実証実験を行った。実験では、周囲にある薬局やイオンモールから、楽天のアプリを利用し、ドローンにスタッフが商品を積み込み、高層マンションへと商品を届けた。

市の掲げる宅配構想では、幕張新都心に近接する東京湾臨海部の物流倉庫から、ドローンで海上や河川の上空を飛行して、新都心内の集積所まで運ぶビジョンを掲げている。

市では、ドローン技術を“空の産業革命”と位置付け、都市部におけるドローン宅配の実現とともに、あらゆる分野でのドローン活用、新ビジネス創出の支援を行い、千葉市をドローン産業の一大集積地とすることを目指す。

実現に向けて市では、国と共同で2018年3月23日に「ワンストップセンター」を設置。市役所の一室で、実証実験に関わる相談に応じ、航空法の許認可業務はできないが、これまでにマッチング相談やドローン活用イベント、利用方法の問い合わせなどで47件、月に換算して10件ほどの相談が寄せられたという。

実証実験まで至った案件としては、学校施設の老朽化調査がある。ドローン撮影で3次元モデルを作成した場合、どのような成果が得られるか試したいという問い合わせがあり、千葉市内の中学校体育館を紹介。ドローン撮影した写真をベースに、写真解析技術を用いて、3次元モデルを作り、施設の劣化状況を把握できるか検証した。

また、市内外企業の技術開発と千葉市への企業誘致を目的に、市所有施設を活用した「ドローンフィールド」を開設し、2017年12月から利用をスタート。フィールドは、大和田調整池の一部(面積:約1万6200m2)、大高調整池の一部(面積:約8500m2)、農政センターの一部(面積:約8550m2)の3カ所。2018年8月末時点で、測量実験など4団体が利用し、7件の実証実験が行われた。市としては、企業の利用を見込んでいるが、ドローンスクールの練習に使いたいというニーズが多く、マッチングがうまくいっておらず、利用はまだ限定的だという。

補助制度(企業立地補助制度)としては、「ちば共創企業賃借立地事業」「コア産業業界団体等立地促進事業」の2つの支援策で、ドローン関連企業の立地を促進している。

3つ目は、各務原市が行った橋梁点検の実証実験から、ドローンを含めたロボット点検のメリットと課題を分析する。

複数のドローン・ロボットを橋の部位によって使い分け
岐阜県各務原市は、「各務原大橋」の点検をドローンによって行った。登壇者は、市都市建設部 道路課長・中村俊夫氏で、ドローン点検の手法とメリットを説明した。

各務原市内には、市が管理する2m以上の橋梁(きょうりょう)は530橋あり、全ての橋の定期点検が2015~2018年度の4年間で行われた。

ドローンを含めたロボットによる点検を実施した「各務原大橋」は、2013年3月の架設。橋梁形式はPC10径間連続フィンバック橋で、長さ594m、全幅員17.1m。歩道の幅員は3mと広く、歩車道の境界にフィンバック部材があるため、一般的な橋梁点検車「BT400」を利用しても点検が困難とされている。そのため、現状での点検方法は、国内に数台しかないといわれる「超大型橋梁点検車」「高所でのロープ作業」「特殊な足場組み立てによる点検」と、いずれもコスト面での負担が大きい方法をとらざるを得ない。

問題解決に向け、各務原市では、2017年7月6日に岐阜大学(SIP)と「インフラ維持管理マネジメント技術に関する協定」を締結。同年4月・11月にロボット技術の損傷検出性能を評価するため、各務原大橋でフィールド試験を実施した。試験では、近接目視点検によって作成した損傷図と、ロボット(ドローン系・ロボット系)が取得した情報を基に作った損傷図を比較し、0.1mm以上のスクラッチを抽出できることが確認され、ロボット技術は橋梁点検に活用できると判断した。

しかし、河川内径間、床版、主桁、ブラケット、支承、下部工などの点検対象部位によって、ドローン系(二輪型マルチコプター、可変ピッチ機構付きドローン)、ロボットカメラ系(ロボットカメラ、カメラシステム)、打音点検ロボットのそれぞれで向き不向きがあるとされたため、組み合わせた運用が必要となった。

こうした成果を踏まえ、市では、岐阜大学、内閣府、国土交通省、岐阜県らと、他の地方自治体でもロボットによる橋梁点検が行えるように指針(案)を策定。案では、“事前調査”部分にロボットによる変状情報の取得を位置付け、その後の法定点検では、点検員による近接目視、損傷程度の評価を行い、検査員が対策区分を判定して健全性を診断。最後に点検結果をまとめるというフローを示した。

定期点検として行った各務原大橋の点検業務では、富士通・名古屋工業大学およびデンソーの2機種のドローンを使用。ロボットも、三井住友建設と、シビル調査設計の2機種を導入し、上部工・支承周り・下部工でそれぞれ使い分けた。ロボット点検はあくまで事前調査で、実際の点検は、ロボット点検の結果を踏まえ、超大型点検車とロープアクセスを用いた近接目視で実施した。

ロボット技術のメリットについては、点検日数が減ったことで、約600万円/日がかかっていた超大型点検車のレンタルコストが削減された他、交通規制の短縮、大断面を有する大型橋梁の点検が容易、経年劣化を把握するための3Dモデルと組み合わせた高度情報管理(データベース化)の構築、将来的な技術者不足を補う期待などを挙げる。

これからの課題点としては、1つの機種では橋梁全ての部材を点検できないため、複数機種の組み合わせが不可欠。そのため、1社のみではなく複数社への発注となるため、発注そのものの考え方を変えなければならないとした。

また、道路橋定期点検要領など、現行の法令・基準がロボット点検を前提としていないので、点検手法の確立や道路管理者の裁量緩和も早急に必要。さらに、自動でひび割れ検出できるAI開発など、国の補助対象を拡大することも、今後は重視されるとした。

最後に、県独自のドローン運用マニュアルをまとめ、“日本一の安全基準”を掲げる福島県の施策を紹介する。

講習会の定期開催やオリジナルのライセンス制度を運用
福島県の無人航空機活用の取り組みでは、県土木部 技術管理課 主査・中村太郎氏が講演した。福島県では、ドローン技術を「災害対応」「日常の維持管理」「情報発信」の3点で活用しているという。

ドローン導入の背景には、2011年に福島を襲った3.11東日本大震災、同年7月の新潟・福島豪雨、同年9月の台風15号の3つの災害が契機となったという。

また、インフラ維持管理の観点からは、管理延長でみると、県内には全国3位の道路、全国4位の河川があり、広範な規模で安全なインフラ点検が求められていることもある。

広報的な面でも、3.11の被災地が現在9割近くまで復旧・復興が進められ、事業効果の対外的な発信といった面からもドローン活用は後押しされている。

ドローンは、海外製の汎用性が高い「INSPIRE2」10機と、福島県で製造されている「QC730」1機を採用。安全な運用のために、飛行頻度の管理や飛行範囲の明確化、飛行体制の確立を明記した県独自のマニュアルをとりまとめ、“日本一の安全基準”を標ぼうし、ドローンの運用を行っている。

ドローンの法律知識(学科)や操作技能(技能)を学ぶ講習会も定期的に開催し、2017~2018年度は8回行い、延べ66人の職員が参加した。資格についても、独自のライセンス制度を設け、ライセンス所持者のみが機体操作を行う方針を取っている。一度保有者になっても、毎月10分以上の飛行を義務化することで、技術を担保し、スキル低下を防いでいる。

これまでの活用実績では、災害対応で豪雨などの地滑り現場などを空撮し、全景の把握や被災が続く中でもリアルタイムでの状況確認に役立てた。

インフラ維持管理では、草木が生い茂る河川で、上空から堆積状況を調査し、優先順位を付けて計画的な維持管理につなげた。

情報発信では、いわき市の薄磯地区で、海岸堤防が完成し2018年に震災以降初の海開きを行ったことに合わせ、事業の進捗(しんちょく)状況をドローンで空撮し、写真パネルなどを道の駅や観光地に掲出してPR。空撮写真は、国への予算要求で要望資料として活用した他、専門研修資料や職員募集案内にも活用した。

将来的な展開について、中村氏は「活用事例を集めた事例集の作成など、水平展開を考えている。ドローン活用を定着させるためにも、予算要求資料や施設点検での標準化を目指したい。次の活用方法を見据え、上位ライセンス制度などの体制づくりにも着手する。世界初のドローン長距離飛行試験拠点として整備を進めている“福島ロボットテストフィールド”には、試験トンネルや橋梁を用意している。安全かつ積極的に新たなドローンの活用方法を模索していく」と抱負を語った。