千葉市
営業マン4人分稼ぐJTBのエース 武器は「他人の知恵」、大型企画まとめる極意は?
旅行大手JTBの名古屋事業部で自治体や経済団体などVIPの企画旅行を担う営業三課の植草誠さん(29)は、入社8年目ながら名古屋事業部の1割を売り上げる。一般的な営業担当者の4人分を稼ぐ力は、上手に周囲を巻き込むことや、自らが楽しむ視点での提案力のたまものだ。
このほど、中部地方の経済団体のパーティーがドイツで催された。総勢650人の5泊7日の企画旅行は、1年前に準備作業がスタート。搭乗便や機内の席順、ホテルや食事の希望など、海外旅行ならではの配慮も必要で神経をすり減らした。
実は、こうしたVIP向けのレストラン選びや席順などへの気配りは、経験豊富な先輩社員からの受け売りだ。「1人でわからないことを悩んでも時間がもったいない。先輩や後輩など関係なく、とにかく他人を巻き込んで、他人の知恵を武器にする」。この姿勢で、大型旅行の企画を作り上げた。最終日の夜、添乗員として同席したレストランで、幹事役の顧客から「いろいろ世話になった。ありがとう」と声をかけられ、目頭が熱くなった。
植草さんは、千葉市生まれ。中学、高校ではリーダー格の目立ちたがりで、先陣切って遊びを提案していた。大学ではフットサルサークルの副代表として、100人以上の部員をまとめ、合宿の手配から飲み会の幹事までこなした。大学時代にドイツやイタリアなどを一人旅し、旅行関連の企業に憧れた。
JTB中部(現JTB)に入社すると、法人営業に配属され、顧客の新規開拓を課された。企業回りを繰り返すが、社員旅行が下火になるなかで、なかなか受注につながらない。上司から「雑談力を磨け。旅行以外の話をしろ」などと忠告を受けた。
そこで、雑談では趣味や家族構成などを聞き出すことにした。例えば、ある企業の社長の奥様がディズニー好きであると聞けば、ディズニーリゾートのツアーに欠員が出たときに、「お得なディズニーツアーが空いてます」と情報を伝えるなどして、関係を深めていった。1年後、仲良くなった社長から知り合いの経営者を紹介してもらい、社員旅行を初受注する。「思わずガッツポーズした」。帰社後に報告すると、先輩らが総立ちして拍手し、食事にも連れ出してくれた。
「添乗は最大のセールス」。添乗員として旅行に同行すれば、幹事の人と話して関係を深め、次の受注にもつなげた。こうして受注を重ねるなか、3年目で先輩から主要顧客の1つを引き継ぐ。それが大規模な経済団体だ。「こんなチャンスは経験できない」と歯を食いしばり、多種多様なニーズを満たす企画旅行を成功させた。
学生時代のサークルで身につけたのが「徹底的に他人を巻き込む」こと。経験の少ない若手だからこそ、わからないことは素直に先輩や後輩に教えを請う。そこで得た知識を次の旅行の企画に生かす。真摯な姿勢で大きな企画旅行もうまく進行させて、新たな受注につなげていった。
現在、自治体との共同事業も手掛けている。3月には名古屋市と共同で、観光地として活用が進む堀川での屋形船ツアーを企画。桜のプロジェクションマッピングなどで屋形船からの景観を演出した。「毎年1つは新しいことに挑戦する」。他人がやらないことをやれば、何か得るものがある。名古屋市との事業もその1つだ。休日には下見で旅行し、顧客の視点を養う。「自分が楽しめなければ、顧客に楽しんでもらえない」という信念からだ。
植草さんは「顧客が楽しんでいるところを直接、目で見られる」ことが、この仕事の最大の魅力だと話す。自分がつくったモノを利用者がどんな表情で楽しんでいるか、実際に見られる仕事はそう多くない。自分で企画した旅行に添乗すればそれができる。顧客の笑顔を見れば、準備のつらさも吹き飛んでしまう。
「人を楽しませるプロになる」のが植草さんの目標だ。新たな楽しみを見つけて提供する仕事は、どんなに厳しくても自分を成長させてくれる。そう信じている。